徐脈とは
徐脈は脈がゆっくりリズムを刻むことをいいます。ただちに命に関わるものは少なく、健康診断で徐脈が見つかっても自覚症状がなければ、多くの場合経過観察となります。
また、健康な若者やスポーツ選手はもともと心拍数が少ないことも多く、自覚症状がない場合が少なくありません。その場合も、特に治療の必要はないとされています。
しかし、自覚症状があったり、頻繁に起こったりする場合は、失神によるケガや事故などの危険もありますし、なかには突然死に至るケースもあります。
そのため、徐脈の自覚症状がある場合は、早めに診察を受けることが必要です。
不整脈には脈がゆっくり打つ「徐脈」の他に、脈が早く打つ「頻脈」、不規則に打つ「期外収縮」という3種類があり、それぞれ下記のように定義されています。
- 脈が1分間に50以下の場合=徐脈
- 脈が1分間に100以上の場合=頻脈
- 脈が不規則になる場合=期外収縮
不整脈を引き起こすものにはさまざまな疾患がありますが、この3つのなかで、もっとも危険なのが「頻脈」です。
頻脈のなかには非常に致死性が高く、突然死につながるものもあります。
反対に、健康な人でも多く見られるものに期外収縮があります。誰でも運動をしたあとや緊張をしたときなど、胸がドキドキするなど拍動が速くなるのを感じることがあるでしょう。
こうした症状は自然現象なので、特に心配することはありません。
しかし、なかによっては安静にしていても脈が乱れるものもあり、その場合には専門医による診察や治療が必要です。
徐脈の症状は?
徐脈には、次のような症状があります。
- 息切れ
- だるさ
- 足のむくみ
- めまい
- 失神 過度の疲労感
徐脈になると、軽い運動や軽作業でも息切れを起こしたり、めまいが生じたりすることがあります。
なぜ、めまいや息切れを起こすかというと、徐脈になるということは心臓の拍動が少なくなるということだから。
心臓の拍動が少なくなれば、全身へ血液を送り届ける回数が少なくなり、全身の細胞は酸素や栄養不足になってしまいます。
そのためめまいや息切れを起こしてしまうのです。
多くの場合、命に危険が及ぶことはありませんが、突然のめまいや失神が大事故につながってしまう場合もありますし、命をおびやかすこともあるかもしれません。
また、徐脈を引き起こす原因によっては、心臓の負荷が急激に増えることで突然死を招くこともあります。
徐脈を引き起こす原因は?
心臓は、右心房、左心房、右心室、左心室という4つの部屋で成り立っています。
心臓が働く仕組みを説明すると、まず、「人体のペースメーカー」と呼ばれる洞結節で電気信号が発生します。
この電気信号による刺激は、刺激伝導系という心臓内の回路を通って、心房の筋肉を収縮させます。
その次に、電気信号による刺激は心臓中心部の房室結節という場所に伝えられて心室に届き、心室の筋肉を収縮させます。
このように電気信号によって心房と心室が順番に収縮することで、心臓はポンプの機能を果たし、全身へ血液を送り届けることができるのです。
徐脈を引き起こす原因は、電気信号が流れる過程のうち、「洞結節」と「房室結節」に異常が起こることです。これらを「洞不全症候群」「房室ブロック」といい、どちらも心臓の拍動を少なくし、徐脈を起こす原因となります。
徐脈の主な原因
- 原因1 洞不全症候群
- 原因2 房室ブロック
- 原因3 遺伝的心異常
- 原因4 その他の原因
原因1・洞不全症候群
洞不全症候群とは、電気信号を生み出す洞結節の細胞に異常が生じて、電気を発生する回数が非常に少なくなったり、電気を発生できなくなったりする状態のことをいいます。
通常の心拍数は1分間に50回~100回程度とされていますが、洞不全症候群になると、運動をしたときや発熱したときなど、本来であれば心拍数が上昇するシチュエーションにおいても、心拍数が十分に上昇しません。
60〜70歳の高齢者に多く見られ、主に加齢により、洞結節が機能不全を起こしていることが原因とされています。
そのほか、虚血性心疾患、心筋症、心筋炎、リウマチ性心疾患、甲状腺機能低下症、睡眠時無呼吸症候群などの疾患が原因となって、二次的に洞不全症候群を引き起こしている場合もあります。
洞不全症候群による徐脈は命を脅かすリスクはほとんどなく、突然死を招くことはほぼありません。しかし、失神をしたときにケガをしたり交通事故に遭ったりする可能性があるので、注意が必要です。
また、脈の遅い状態が慢性化して長く続くと、次第に心臓の働きが低下して、心不全に至ることもあります。
原因2・房室ブロック
洞結節で発生した電気が心房から心室へ伝えられる際には、房室結節と呼ばれる部位を通ります。
本来、ここは電気の流れを調節して電気信号を心室に受け渡す役割を担っているのですが、なんらかの原因により細胞に異常が生じて、心室へ収縮の命令がうまく伝わらなくなることがあります。これを房室ブロックといいます。
房室ブロックは症状によっていくつかの段階に分けられます。
電気が伝わるスピードが遅くなった状態を第1度、ときどき途切れる状態を第2度、完全に途切れてしまう第3度といい、第3度を「完全房室ブロック」と呼ぶこともあります。
また危険な状態として、まったく前兆がなく突然、何秒か電気信号が途切れてしまうこともあり、この状態を「高度房室ブロック」と呼びます。
健康な若い人やスポーツ選手の場合、房室結節からの電気が若干伝わりにくくなり、第1度、または第2度のブロックが起こることがあります。この場合、無症状であれば心配いりません。
しかし完全房室ブロックとなり、心室へ電気信号がまったく伝わらなくなると、心室はいわば自家発電のように、自分で電気を発生させなければいけなくなります。この電気がうまく心室を収縮できなかったり、遅かったりすると、ふらつきや失神、心不全の原因になります。
重度の房室ブロックの場合は非常に脈が遅くなったり、心臓が止まってしまったりすることもあり、その場合には突然死に至ることもあります。
原因3・遺伝的心異常
遺伝的な要因に加えて環境要因も重なることで、徐脈が生じる場合もあります。
また、生まれつき洞結節の働きが弱い人もおり、その場合は徐脈になりやすくなります。
そのほか、不整脈と診断されて結果を受けても、はっきりした原因が見つからない場合もあります。その場合は、先天的に電気信号を伝える刺激伝導系に異常があることも考えられます。
原因4・その他の原因
降圧薬や抗うつ薬を服用していると、その副作用として徐脈が起きることもあります。抗不整脈薬の使い過ぎでも、徐脈を引き起こすことがあります。
そのほか甲状腺機能低下症を発症し、甲状腺ホルモンの分泌量が低下していると、徐脈になることがあります。なぜなら、甲状腺ホルモンには心臓の収縮を促進する働きがあり、このホルモンの分泌が抑えられることで、心臓の収縮活動も減少してしまうからです。
また、動脈硬化の傾向がある人も、冠動脈の血管が狭くなって心臓への血液の流れが一時的に滞ることで、徐脈を発症しやすくなります。
徐脈の治療法は?
徐脈はどのように治療するのでしょうか。
徐脈の治療法には以下のようなものがあります。
- ペースメーカーを植え込む
- 投薬による治療を行う
ペースメーカーを植え込む
自覚症状がなく、日常生活に支障がない場合には、徐脈と診断されても経過観察で済む場合がほとんどです。
しかし日常生活に支障が及んでいたり、徐脈が頻回に及んでいたり、徐脈の程度が重症であったりする場合には治療が必要になります。
主な治療法は、ペースメーカーの植え込みです。
ペースメーカーとは、体内に埋め込む小さな医療機器で、これを左または右鎖骨の下に植え込みます。
ペースメーカーは常に脈拍をモニタリングしており、脈拍が遅くなったことを検知すると、非常に弱い電気信号を送って脈拍を正常に戻す働きがあります。
ただし、術後は定期的な点検が必要で、半年に1回程度は医療機関を受診し、正常にペースメーカーが働いているか確認します。 また、年数とともにペースメーカーの電池が消耗するため、7〜8年後に再手術を受けて本体を交換する必要があります。
投薬による治療を行う
「徐脈は薬では治療できない」というのが定説ですが、実は、洞不全症候群にはシロスタゾールという薬物が有効です。
もともとこの薬は脳梗塞の患者さんが血液をサラサラにするために使用するものでしたが、以前からこれを服用すると心拍数が速くなることが指摘されていました。
それを利用し、近年では洞不全症候群にシロスタゾールを投薬することもあります。
ただし、この事実はあまり一般的に知られておらず、専門医でも知らないことが少なくありません。
しかしもしどうしてもペースメーカーを植え込みたくないという場合には、かかりつけ医に相談してみると良いのではないでしょうか。
まとめ
若い人やスポーツ選手などでも見られる徐脈。程度が軽く、自覚症状もなければ特に問題ありませんが、重度になると交通事故や転落などの可能性がありますし、重度になると突然死のリスクもあります。
健康診断などで徐脈を指摘された場合には、念のため医療機関を受診して、危険度を確認してもらいましょう。
不整脈のことでお悩みでしたらご相談ください
現在では、医療技術の進歩や治療方法の多様化により、症状に合った治療を選ぶことができ、多くの不整脈が治癒可能になっています。
しかし、不整脈の中には突然死につながる危険なものもあり、その「前兆」に気づくことが非常に重要です。
健康診断で指摘を受けた方や、息切れ・胸痛・めまいなどの症状に悩まされている方は、まずは適切な診察を受けて、ご自身の不整脈の種類や程度を理解することから始めましょう。
医師一覧
-
- 不整脈
2023.08.16不整脈の手術について|さまざまな術式の概要を解説 -
- 不整脈
2023.08.16不整脈の治療法|薬物・手術療法や生活習慣の見直しについて -
- 不整脈
2023.08.16不整脈の病気|その種類や症状について -
- 不整脈
2023.08.16不整脈の症状について|危険な症状や受診の目安について解説 -
- 不整脈
2023.08.14不整脈の原因とは|心疾患や高血圧、生活習慣など引き起こす原因について解説 -
- 期外収縮不整脈
2023.03.24期外収縮とは|原因や検査、治療法について解説 -
- 徐脈性不整脈
2023.03.24徐脈とは|症状・原因・治療法について解説 -
- 頻脈性不整脈
2023.03.24頻脈とは|症状、原因、治療法について解説 -
- 不整脈
2023.03.24不整脈の症状や原因、治療法について解説