不整脈の術式による違いと選択について
正常な脈は1分間に50〜100回/分、規則正しいリズムで打ちますが、場合によってはそれより速くなったり、遅くなったり、ペースが乱れて不規則になったりします。
これらの不整脈を治療するには、「薬物療法」と「手術」があります。
薬物療法は、不整脈による不快な症状を抑えることが目的ですが、手術のなかには不整脈の根治を期待できるものもあります。
近年では医療技術が進化し、侵襲性(体への負担)の低い術式が確立しており、高齢者でも安心して受けることができます。
とはいえ麻酔を伴う外科手術ですから、薬物療法に比べて体に負担がかかるのは事実。
そのため、不整脈の治療法として手術を選択する際には、症状や患者の年齢、状態、既往歴などを考慮しつつ、治療の目的(根治したいのか、あるいは、不快な症状を軽減できれば良いいのか)などを考えることが大切です。
不整脈の手術(3種類)|それぞれのメリットとデメリットについて
不整脈の手術は、以下の3つに分類できます
- 1.カテーテルアブレーション
- 2.ペースメーカー移植術
- 3.埋め込み型除細動器
それぞれにメリットとデメリットがあるので、手術を考えている場合にはそれぞれの特徴を把握した上で選択しましょう。
1.カテーテルアブレーション
カテーテルアブレーションとは、「不整脈を引き起こす異常な心臓内の局所をカテーテルで焼灼して、正常の脈を取り戻す治療のこと」を言います。
カテーテルとは、医療用として用いられる細い管のこと。
カテーテルアブレーションでは、主に足の付け根からこのカテーテルを体内に挿入し、レントゲンで透視しながら、カテーテルの先端を心臓まで進めます。
そして、カテーテルの先端から高周波電流を流し、異常な電気信号を発している組織を焼灼(アブレーション)し、細胞を壊死させます。
不整脈の元凶となる部分を完全に焼き切ることができるので、不整脈を焼失させることができるのです。
このカテーテルアブレーションが治療対象とするのは、脈が早くなる頻脈性不整脈の多くと、脈のリズムが乱れる期外収縮です。
日本でカテーテルアブレーションが保険適用となったのは1994年。まだ30年ほどしか経過していませんが、この間に術式が非常に進化して普及が進み、2020年には日本国内で10万件以上ものカテーテルアブレーションが行われています。(*1)
そのうち約7割を、心房細動(頻脈性不整脈のひとつ)が占めています。(*2)
(*1) ※ 循環器疾患診療実態調査報告書(2020 年実施・公表) JROAD(The Japanese Registry Of All cardiac and vascular Diseases)
(*2)国立研究開発法人 科学技術振興機構「バルーンアブレーションの持続性心房細動への適応拡大」
・カテーテルアブレーションのメリット
カテーテルアブレーションのメリットとして、以下のことが挙げられます。
- 不整脈の根治を目指すことができる
- 低侵襲であるため身体的な負担が少ない。高齢者でも安心して受けられる
- 薬を服用したり、頻回に通院したりする必要がなくなる
・カテーテルアブレーションのデメリット
反対に、カテーテルアブレーションには以下のようなデメリットがあります。
- 合併症のリスクがある
- 成功率は非常に高いとはいえ、100%ではない
- 術後再発する場合もある
カテーテルアブレーションの合併症のうち、危険なものに脳梗塞、心タンポナーデ、食道関連合併症があります。
グローバルな調査では、死に至る重篤な合併症は0.1%の割合で発症していることが明らかになっています。
また、治療後に不整脈が再発する可能性があることも、カテーテルアブレーションのリスクといえます。
たとえば心房細動の治療でカテーテルアブレーションを行った場合、急性期(術後2~3か月以内)の再発を認めることが少なくありません。
心房細動の術後3か月以上経過してから再発するものを慢性期再発といい、急性期再発を認める症例のうち慢性期に心房細動の再発が認められる例は約70%とされています。(*3)
ただし、術後3か月以内に起きた心房細動は再発とみなさず、安静あるいは抗不整脈薬で経過を見ることもあります。
(*3)公益財団法人日本心臓財団
・カテーテルアブレーションの費用、入院期間
カテーテルアブレーション治療前後の検査や経過観察を含め、約1週間入院した場合には、総額200万円弱になります。
これには、カテーテルアブレーションの治療を行う前の心機能チェック、事後の出血や感染など合併症予防処置、治療効果の確認なども含まれます。
ただし、カテーテルアブレーションは保険適用なので、3割負担の場合には約60万円となり、また、医療保険制度のひとつである高額療養費制度を利用することでさらに負担を軽減できます。(*4)
(*4)公益財団法人日本心臓財団
・カテーテルアブレーション治療後の注意点
カテーテルアブレーションを行ったあと、2〜3か月ごとに通院して状況を確認したり、場合によっては抗不整脈薬や抗凝固薬の投薬治療を継続したりする必要があります。
また、不整脈が再発することもあるため、気になる症状を感じた場合には、すぐ、医療機関を受診することが肝心です。
2.ペースメーカー移植術
ペースメーカーとは人工的に心臓へ電気刺激を与え、ポンプ機能が停止するのを予防する医療機器のこと。
これを体内に埋め込むことで、心拍を正常に保ちます。主に、脈が遅くなる徐脈性不整脈に対して用いられます。
・ペースメーカー移植術のメリット
ペースメーカー移植術には、次のメリットがあります。
- 徐脈性不整脈の発生を防ぐ
現在、ペースメーカーの性能はめざましく進化し、小型軽量化を実現しています。
従来は、ペースメーカーの本体と心臓をリードでつなぐ方法が一般的でしたが、最近ではリードのないペースメーカーも開発されており、感染症やリードの不具合のリスクが解消されたり、生活の不便が少なくなったり、従来のペースメーカーが持っていた課題が大きく改善されています。
・ペースメーカー移植術のデメリット
ペースメーカー移植術には、次のデメリットやリスクがあります。
- 植込み手術による出血、感染
- 植込み直後にリードが離脱する
- 誤作動
・ペースメーカー移植術の入院期間と保険等
入院期間は7〜10日です。
費用は保険が適用となり、高額療養費制度を利用することができます。
・ペースメーカー移植術の治療後の注意点
注意しなければならないのは、電池寿命です。
ペースメーカーの電池の寿命は使用状況によって異なりますが、だいたい5~10年とされています。(*5)
そのため、電池の寿命に応じて本体を交換しなければならず、その際には再手術が必要になります。
また、日常生活において電磁調理器やIH炊飯器、携帯電話などは除細動器に影響を及ぼすリスクがあります。使用については医師の指示に従いましょう。
そのほか、体内に埋め込んだあとには6か月から1年に一度を目安に医療機関を受診し、ペースメーカーが正常に機能しているか確認する必要があります。
3.埋め込み型除細動器(ICD)
除細動器とは、たえず心拍が正常であるかどうか見張り、頻脈が発生するとすぐにそれを察知し、不整脈が停止するよう自動的に電気ショックなどの治療を行う機器のことをいいます。
これを体内に埋め込み、不整脈による突然死を予防します。
頻脈性の不整脈に用いられ、特に、命に関わるリスクが高い心室頻拍や心室細動に対して使用されます。
・埋め込み型除細動器(ICD)のメリット
埋め込み型除細動器には、次のメリットがあります。
- 致死性の高い頻脈性不整脈による突然死を防ぐ
- 患者一人ひとりの不整脈に応じてプログラムが可能。手術後も、体外からプログラムを調整できる(*6)
- 心拍数が遅くなっている場合にはそれを補助する働きもある(ペースメーカーの役割も兼ねる)
・埋め込み型除細動器(ICD)のデメリット
- 植込み手術による出血、感染
- 植込み直後にリードが離脱する
- 誤作動
・埋め込み型除細動器(ICD)の費用負担と入院期間
約1週間で退院が可能です。(*7)
費用は保険が適用となり、高額療養費制度を利用することができます。
・埋め込み型除細動器(ICD)の治療後の注意点
埋め込み型除細動器は突然死の可能性がある致死性不整脈に対し、非常に有用な治療法ですが、ひとつ注意しなければならないのはペースメーカー同様、電池寿命です。
埋め込み型除細動器は電池によって作動しており、電気ショックの使用頻度などによって左右されますが、電池の寿命は5~7年とされています。(*7)
そのため、電池の寿命に応じて本体を交換しなければならず、その際には再手術が必要になります。
また、ペースメーカーと同じく、日常生活において使用に注意しなければならない電化製品や器具があります。
使用については医師の指示に従いましょう。
そのほか、体内に埋め込んだあとには6か月から1年に一度を目安に医療機関を受診し、除細動器が正常に機能しているか確認する必要があります。
医療機関の選び方や手術治療を受ける際の注意点
不整脈の治療に対し、手術を希望する場合には、できれば不整脈を専門に扱う循環器科を受診しましょう。
また、カテーテルアブレーションの治療を望む際には医師だけでなく、臨床工学技士、臨床検査技師、看護師など、治療に関わるスタッフが「不整脈の専門資格を有している」「不整脈を専門としている」ということを目安にすると良いでしょう。
なぜなら、カテーテルアブレーションの治療は、さまざまな専門職がチームとなって当たるため。
そのため、一人一人の技量の高さが治療成績に大きく影響するのです。場合によってはセカンドオピニオンも利用しながら、納得できる医療機関を選びましょう。
まとめ
不整脈の治療法にはさまざまなものがあります。
自分の不整脈のタイプや症状、年齢、ライフスタイルなどを総合的に考慮しながら、自分に適した治療法を選ぶようにしましょう。
不整脈のことでお悩みでしたらご相談ください
現在では、医療技術の進歩や治療方法の多様化により、症状に合った治療を選ぶことができ、多くの不整脈が治癒可能になっています。
しかし、不整脈の中には突然死につながる危険なものもあり、その「前兆」に気づくことが非常に重要です。
健康診断で指摘を受けた方や、息切れ・胸痛・めまいなどの症状に悩まされている方は、まずは適切な診察を受けて、ご自身の不整脈の種類や程度を理解することから始めましょう。
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